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名古屋高等裁判所 平成8年(ネ)40号 判決 1997年3月12日

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求めた裁判

(控訴人)

主文同旨

(被控訴人)

本件控訴を棄却する。

第二  事案の概要

本件は、宗教法人である被控訴人が、「<1>被控訴人の包括宗教法人(以下「包括法人」という。)である日蓮正宗(以下「日蓮正宗」という。)は、平成五年四月二二日付文書により、控訴人に対し、控訴人が日蓮正宗代表役員の承認を得ることなく被控訴人の責任役員(被控訴人における名称は「総代」、宗教法人「法布院」規則六条二項参照)を解任したことなどを理由として、被控訴人の主管の地位から罷免するとの懲戒処分(以下「本件罷免処分」という。)をした。<2>その結果、控訴人は、被控訴人の主管の地位を失うのと同時に、役職指定である代表役員の地位をも喪失し、かつ、原判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)につき、その占有権原を失った。」と主張して、本件建物所有権に基づき、控訴人に対し、その明渡を求めた事案である。

以上のほか、当事者間に争いのない事実等及び争点は、次のとおり付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

1 争点1(被控訴人責任役員の解任事由につき、これを制限した規定の有無、及び右解任につき日蓮正宗代表役員による承認の要否)についての補充

(一) 民法六五一条一項の適用問題

(1) 宗教法人とその責任役員の法律関係は、委任ないし準委任の関係であるから、その解任については、民法六五一条一項が適用されるというべきである。そして、被控訴人の、宗教法人法(以下、単に「法」という場合は宗教法人法を指す。)所定の手続を経て所轄庁の文部大臣の認証を受けた規則(以下「認証規則」という。)である宗教法人「法布院」規則(以下「被控訴人規則」という。)には、責任役員の解任について規定を欠くから、責任役員の選任権者である被控訴人代表役員が条理に従い責任役員の解任権者となり、その手続は民法六五一条一項により、いつでも事由のいかんを問わず解任できると解すべきである。

(2) 原判決が指摘する一時的な事務か否かは、民法六五一条一項の適用に当たって考慮されるべき事情とはならない。委託された内容が恒常的な事務については、委任者と受任者の信頼関係がより重要な要素となり、信頼関係がなくなった以上は、委任関係の継続を強制するべきではないから、一時的な事務が委託された場合と同様に、民法六五一条一項の適用を受けると解すべきである。

(3) 原判決が判示するように、団体と機関の関係であるから当然に民法六五一条一項の適用が否定される、とすることはできない。また、控訴人が後記のとおり責任役員を解任した平成四年一一月九日当時の被控訴人規則が、受任者である責任役員の権限に期間的制限を加えているなどの被控訴人特有の事情を理由として、民法六五一条一項の適用を否定することもできない。

(二) 被控訴人規則七条三項の類推適用の可否

宗教法人法上、責任役員の解任を制限する規定はなく、責任役員の解任につき被控訴人規則にも別段の定めがないことから、被控訴人代表役員である控訴人は、日蓮正宗代表役員の承認を得ることなく、平成四年一一月九日佐崎昭二郎ら三名の責任役員を解任した(以下「本件解任行為」という。)ものである。

これに対し、原判決は、責任役員の選任権限と解任権限とがその性質上表裏一体の関係にあるとして、被控訴人責任役員の解任の場合につき、責任役員選任の場合の規定である被控訴人規則七条三項の類推適用があり、したがって、右解任につき日蓮正宗代表役員の承認を要する、と判断したが、右判断は、以下のとおり誤りである。

(1) 選任と解任は、質的に異なり、その手続上の制約も異なる場合が多い。現に、<1>日蓮正宗の認証規則である日蓮正宗宗制(以下「宗制」という。)では、代表役員が責任役員(総監)を他のいかなる機関からの関与も受けずに任免することと規定されていて(宗制六条二項、一七条一項)何らの制約も置かれていないこと、<2>地方自治法は、副知事及び助役の選任につき、議会の同意を要件としながら(同法一六二条)、他方、解任については、知事及び市長に一方的解任権を認めている(同法一六三条)ことから見ても、本件解任行為につき、選任の場合の規定である被控訴人規則七条三項を類推適用して、日蓮正宗代表役員の承認を得る必要があるとの結論を導くべきではない。

(2) 責任役員の解任に関する事項は、当該宗教団体の自律権の重要な要素をなす事項であり、本来、当該団体内で自己決定すべき問題である。原判決のように、被控訴人規則七条三項が規定する、被控訴人責任役員の選任の場合における日蓮正宗代表役員の承認の規定を、解任の場合に類推適用することは、解任手続の制約をなすものであり、被包括宗教法人(以下「被包括法人」という。)の自主性をないがしろにし、極めて不都合な結果を招来するもので、誤りである。

なお、責任役員による代表役員に対する監督権能の問題と、代表役員による責任役員解任権の制約の問題は別個であるところ、被控訴人責任役員の選任の際の日蓮正宗代表役員の承認の意味は、宗教上の目的を共有する特定の結合関係及び組織の一体性を維持することにあるのであって、右承認により、責任役員による被控訴人の代表役員に対する監督権能が保障されるという事態は想定しがたい。

2 争点2(本件解任行為の正当性)についての補充

(一) 被包括関係廃止のために必要な手続として行った責任役員の解任に日蓮正宗代表役員の承認が不要であることについて

(1) 法布院は昭和五八年、全て創価学会員を信徒とする寺院として建立されたが、平成三年一月以降、創価学会と日蓮正宗の対立が表面化すると、同年四月には日蓮正宗宗務院が、被控訴人に対し、創価学会員以外の信徒から責任役員を選任し、創価学会員を責任役員から排除するように強制した結果、被控訴人においては、平成四年五月に創価学会脱会者の中から責任役員が選任された。彼らは、寺院の行事にはほとんど参画せず、むしろ日蓮正宗の傀儡として、被控訴人を離脱させないことを目的として存在していた。

(2) 平成三年一一月当時、被控訴人の圧倒的多数の信徒及び控訴人は、日蓮正宗との被包括関係廃止を望んでいた。それにもかかわらず、被控訴人の当時の責任役員は、被包括関係廃止を防ぐ目的で日蓮正宗から選任を強制された者であったため、信徒の多数意思を反映した行動を採る(日蓮正宗との被包括関係廃止に同意をする)ことは全く期待できず、被控訴人の自由な意思形成が妨げられていた。そこで、被控訴人の代表役員である控訴人は、信徒の総意を重視し、かつ、自己の宗教的信念を貫くために、宗派離脱を踏み切ることとし、宗派離脱を断行する前提として、本件解任行為を行ったものである。

(3) ところで、被包括関係の廃止は、「聖」の領域に属し、宗教法人法の規制領域は、専ら「俗」の領域の側面だけであるが、「俗」の領域に関する規制が、「聖」の領域(教義、信仰、宗教活動など信教の自由の側面)の規制に及ぶ可能性を常に有しているから、「聖」の領域に属する被包括関係廃止の手続のあり方については、憲法二〇条、法一条二項の趣旨に則り、「俗」の領域に関する規制が、「聖」の領域に及ぶような事態にならないように解釈すべきである。

そうだとすると、右(2)の状況下においては、被包括関係廃止の自由を保障した法二六条一項後段及び法七八条の趣旨から、控訴人は、信徒の総意を重視して宗派離脱を断行するために、日蓮正宗代表役員の承認を受けることなく、前記責任役員を解任することかできると解すべきである。

したがって、本件解任行為は正当であり、法規違反はない。

(4) なお、原判決は、被控訴人の意思は、責任役員会の議決のみにより決定されるのであり、信徒の意思とは無関係であるとするが、右判断は、以下のとおり誤りである。

イ 右(3)でのべたとおり、宗派離脱(被包括関係廃止)は、いわゆる「聖」の領域に属するものであり、したがって宗派離脱の意思は、信徒の総意などの「聖」の領域の意思決定によるべきであり、それが宗教団体の意思である。そして、平成三年一一月当時、被控訴人の圧倒的多数の信徒が、日蓮正宗との被包括関係廃止を望んでいたことは、右に述べたとおりである。

ロ 被控訴人においては、責任役員は、檀徒又は信徒のうちから選定することとされていて(被控訴人規則七条二項)、信者の意向が反映される体制になってはいるが、責任役員会における宗派離脱の議決は、この点に関する信者の総意という聖なる部分の意思が形成されているもとで、いわば形式を整える意味でしかないのである。

ハ ところが、被控訴人においては、信者の総意という「聖」なる部分の意向が責任役員会に反映されない状況にあったため、これを忠実に反映させようとして代表役員である控訴人がやむなく採った方法が、責任役員の解任と新責任役員の選任であったのである。

(5)ところで、前記(3)の観点から本件を判断するに当たっては、前記(2)の事情の存否、被控訴人の信徒の総意(宗派離脱を望んでいたこと)、宗教実践の過程でそれに直面した控訴人の宗派離脱決意の経緯、被控訴人の責任役員選任についての日蓮正宗代表役員の「承認」の従前の運用の実態及び本件責任役員選任の経緯の中で創価学会員を責任役員から排除しようとする日蓮正宗の支配・介入等の事実につき、具体的な事実認定が必要になることはいうまでもない。

原審がこのような観点からする証拠調べをしなかった結果、審理不尽により、判断を誤ったものであることは明らかである。

(二) 包括団体の裁量について

原判決は、「宗教上の目的を共有する特定の結合関係及び組織一体性を維持するため、いかなる者を責任役員として承認するかは、包括宗教団体の裁量に委ねられているものと解される」とする。

しかしながら、憲法二〇条の趣旨から、包括・被包括の関係の廃止の場面では、特に、被包括法人の独自性、自律性が最大限に保障されなければならないのであり(そのために法二六条一項後段や七八条が設けられた。)、したがって、被包括法人の責任役員としていかなる者を承認するかについての包括宗教団体の裁量は限定されるべきであり、被包括関係廃止を防ぐ目的で責任役員選任についての承認権を行使することや、その類推適用により責任役員解任についての承認権を行使することは許されないというべきである。

3 争点3(本件罷免処分の効力)についての補充

(一) 法七八条は、責任役員会における被包括関係廃止の決議の存否にかかわらず、被包括関係廃止を防ぐことを目的とする、又はこれを企てたことを理由とする処分を一切禁止しているところ、本件罷免処分は、法七八条に違反してなされたもので、無効である。

すなわち、控訴人は被控訴人主管として、宗祖日蓮大聖人の精神を忠実に実践するとともに信徒の総意に応えるには、被控訴人の日蓮正宗からの宗派離脱が絶対に必要であると考え、これを実行するために、宗祖の精神からかけ離れ、信徒の総意に反する存在であった旧責任役員を解任したのである。また、控訴人は、信徒の総意に反する日蓮正宗による本件解任行為の撤回命令に応じないことが宗祖の精神に適うと判断して行動したものであって、控訴人の行動は正当である。

日蓮正宗が被控訴人に対し、本件解任行為につき不承認の態度を明らかにしたのは、法布院が平成四年一一月九日に被包括関係廃止の決議を行った後であり、また、平成五年四月一〇日、宗務院が不承認を根拠に控訴人に対して本件解任行為の撤回を命じた(以下「本件撤回命令」という。)のも、被控訴人による被包括関係廃止のための規則変更認証申請(同年一月二五日)の後のことである。日蓮正宗宗務院は、平成五年四月一〇日、被控訴人の被包括関係廃止を妨害するために、本来、承認を要しない本件解任行為の撤回を命じたのであり、本件撤回命令は法七八条に反し違法である。

したがって、仮に控訴人に形式的に日蓮正宗宗規(以下「宗規」という。)二四七条九号の懲戒事由があったとしても、本件罷免処分は、その決定的動機が宗派離脱(被包括関係廃止)を防止するためになされたものだから、法七八条により無効である。

(二) また、本件解任行為につき被控訴人規則七条三項が類推適用され、日蓮正宗代表役員の承認が必要だとする見解は、日蓮正宗が、被包括関係廃止を防ぐ目的で、同条項違反を理由として、事後的に控訴人の行為を違法として処分することを許容する解釈を導く危険性がある。しかし、そのような解釈は、法七八条を潜脱するものであるから、その場合には、被控訴人規則七条三項に違反する行為は、罷免処分事由として宗規二四七条九号が規定する法規違反の対象から排除して解釈されるべきである。

二  被控訴人の主張

控訴人の主張はいずれも争う。

1 控訴人の主張1について

任意規定である民法六五一条一項は、被控訴人の責任役員の解任に関して適用されない。仮に適用されるとしても、被控訴人の代表役員が責任役員を解任するには、日蓮正宗の代表役員の承認を要するもので、控訴人が右承認なく行った本件解任行為は、無効である。

2 控訴人の主張2について

宗教法人法及び被控訴人規則によると、被控訴人の意思形成は、あくまで責任役員会の議決が必要であり、それ以外に被控訴人の意思形成はありえない。控訴人は、佐崎昭二郎ら従前の責任役員は、控訴人個人の宗派離脱の意思に賛同せず、宗派離脱にかかる被控訴人の意思決定は否決されると考えて、これら責任役員を違法に解任し、宗派離脱に賛同すると考えられる者を責任役員に選任したとして、宗派離脱を含む被控訴人規則変更議決を行ったものであるから、被控訴人に、宗派離脱の意思は形成されていない。

なお、被包括関係廃止は、単に信者個々人に止まらず、往々にして寺院財産の帰属を巡る「俗」の争いを生じている。

実質的に包括・被包括関係において、包括宗教団体が被包括法人に対し、指導・監督する権限を有することは当然であり、日蓮正宗代表役員が被控訴人の責任役員の選任権・解任権を有する以上、当然に、責任役員承認の裁量権を有する。

3 控訴人の主張3について

宗派離脱の意思を有しているのは控訴人個人に過ぎないのに、控訴人は、控訴人の意思と被控訴人の意思を混同して主張している。

本件罷免処分は、控訴人が、被控訴人規則及び宗制並びに宗規に違反して重大明白な違法行為である本件解任行為を行ったことに対し、日蓮正宗宗務院が事実確認の上、白紙撤回の是正措置を講ずるように訓戒したにもかかわらず、控訴人が本件解任行為を是正せず、本件撤回命令に従わなかったためになされたもので、客観的に重大明白な違法行為に対する懲戒処分であり、被包括関係廃止行為とは無関係である。法七八条は、適法な被包括関係廃止を理由とする不利益取扱等を禁止しているのであり、違法行為まで保護するものではない。したがって、本件において法七八条を適用する余地はない。

第三  証拠関係《略》

第四  当裁判所の判断

一  本件に至るまでの経緯

《証拠略》によると、次の事実を認めることができる。

1 「法布院」は、愛知県東海市付近に創価学会員を信徒とする教会を創立する必要から、昭和五八年、日蓮正宗によって建立された。「法布院」建立に至る右の経緯からして、被控訴人の信徒のほとんどは、創立当初から創価学会員によって占められていた。

2 控訴人は、右落慶入仏法要の日である昭和五八年六月三〇日、日蓮正宗管長(代表役員)阿部日顕から被控訴人教会の初代主管に任命されるとともに、「主管の職にある者をもって、代表役員に充てる」との被控訴人規則七条一項の規定に基づき、同時に被控訴人の代表役員に就任した。

控訴人は、昭和五八年六月三〇日、被控訴人の代表役員として被控訴人に赴任して以来現在に至るまで、被控訴人の本堂と庫裡に当たる本件建物を占有している。

3 ところで、日蓮正宗は、平成二年一二月、池田大作を信徒の代表である法華講総講頭(信徒総代)の地位から追って、創価学会との間に紛争が表面化し、平成三年ころからは、日蓮正宗を包括法人とする傘下の寺院及び教会に対し、以後創価学会員以外から責任役員(総代)を選任するように指導するに至り(右指導には、傘下の被包括法人が宗派離脱を図るのを防止する狙いがあったものと推認できる。)、さらに、同年一二月には、創価学会に対し破門通告書を送付した。

4 被控訴人代表役員であった控訴人は、いったんは右指導に従い、平成四年四月二九日付で、被控訴人の信徒中、数少ない非創価学会員の中から佐崎昭二郎ら三名を被控訴人責任役員として選任し、宗規二三五条に基づき日蓮正宗代表役員に対し総代改選承認願を提出して、日蓮正宗代表役員の承認を受けた。

5 その後、控訴人は、その宗教的信念を貫くためには日蓮正宗との被包括関係廃止(宗派離脱)もやむなしと考えるに至ったが、佐崎昭二郎ら三名の責任役員は非創価学会員であったことから、責任役員会において日蓮正宗との間の被包括関係の廃止を含む本件規則変更決議を行うにつき、同人らの同意を得ることは期待できないと考えた。

そこで、控訴人は、責任役員会において日蓮正宗との間の被包括関係の廃止を含む本件規則変更決議を行うにつき、反対すると考えられた責任役員を賛同すると考えられる者に入れ替えるため、平成四年一一月九日、日蓮正宗代表役員の承認を受けることなく(日蓮正宗代表役員の承認を求めたとしても、その承認を得られなかったであろうことは、その経緯からして明らかである。)、佐崎昭二郎ら三名を責任役員から解任し(本件解任行為)、その後任の責任役員として創価学会員である金田保外二名を新たに選任した。そして、即日、控訴人は、新責任役員による責任役員会を招集し、右責任役員会において、被控訴人と日蓮正宗との間の被包括関係の廃止を含む本件規則変更決議を行い、かつ、同日付でその旨を日蓮正宗に通知した。

6 さらに、控訴人は、平成五年一月二五日、愛知県知事に対し、日蓮正宗との被包括関係廃止のための規則変更認証申請を行った。

7 日蓮正宗宗務院は、被控訴人代表役員である控訴人が被控訴人規則及び宗制、宗規に違反して本件解任行為を行ったとして、平成五年二月二六日付で控訴人を召喚し、日蓮正宗総監藤本日潤が、同年四月一〇日、召喚した控訴人に対し事実確認を行った上、宗務院の不承認を根拠に本件解任行為を撤回するよう是正措置を指示した(本件撤回命令)。

もっとも、認証規則である被控訴人規則及び宗制には、責任役員解任につき日蓮正宗代表役員の承認を要する旨定めた規定は存在しなかった(なお、本件解任行為につき、責任役員解任について日蓮正宗代表役員の承認を要する旨定めた、被控訴人規則、宗制四三条二項が類推適用されるかの点については、後記二2において判断する。)。

8 控訴人は、同月一七日付けで、本件撤回命令に応じることを拒否する旨回答した。

9 そこで、日蓮正宗管長(代表役員)阿部日顕は、同月二二日付文書により、宗規二四七条九号に基づき控訴人に対し、被控訴人主管を罷免する旨の本件罷免処分を行った。

10 被控訴人規則七条は、「代表役員は、日蓮正宗宗規により、その教会の主管の職にある者をもって充てる。」と定めているので、本件罷免処分が有効であれば、控訴人は、被控訴人の代表役員の地位をも失う関係にある。

以上の事実が認められる。

二  争点1(被控訴人責任役員の解任事由につき、これを制限した規定の存否、及び右解任につき日蓮正宗代表役員による承認の要否)について

1 被控訴人責任役員の解任事由につき、これを制限した規定の存否

(一) 一般に、責任役員は、当該宗教法人の規則の定めるところにより選任され、当該宗教法人のために、その事務を決定する職務権限を有すること(法一八条四項)から、宗教法人とその責任役員の法律関係は、委任ないし準委任関係にあるものと解される。したがって、宗教法人とその責任役員との法律関係については、当該宗教法人の規則中に特段の定めがないときは、委任に関する民法六四三条以下の規定の適用があると解するのが相当である。

ところで、当裁判所も、本件において、被控訴人規則七条二項の類推適用(その限りにおいて、被控訴人規則七条二項は、右の特段の定めに当たる。)により被控訴人の代表役員がその責任役員の解任権を有すると判断するものであって、その理由は、原判決二一枚目表七行目から同裏二行目までと同一であるから、これを引用する。

(二) 次に、被控訴人規則は、責任役員の解任事由については、何ら定めるところがないから、被控訴人においていかなる場合にその責任役員を解任できるかの点については、一般原則を定めた民法六五一条一項の適用があるものと解せられる。そして、弁論の全趣旨によれば、被控訴人の代表役員であった控訴人は、平成四年一一月九日、民法六五一条一項に基づき、被控訴人の責任役員の地位にあった佐崎昭二郎ら三名を解任したものと認められる。

(三) この点に関し、被控訴人は、宗規二三六条三項を援用して、被控訴人において責任役員を解任できるのは、同条項に定める場合に限定される旨主張するが、当裁判所も右主張は採用できないと判断するものであって、その理由は、原判決二〇枚目表一行目から同二一枚目表四行目までと同一であるから、これを引用する。

2 日蓮正宗代表役員による承認の要否

次に、被控訴人の責任役員の解任につき、日蓮正宗代表役員による承認の要否につき、判断する。

この点については、当裁判所も、本件においては、責任役員の選任について日蓮正宗代表役員の承認を要する旨定めた被控訴人規則七条三項の類推適用があり、したがって、被控訴人の責任役員の解任についても、選任の場合と同様に、日蓮正宗代表役員による承認が効力要件になると解するものであって、その理由は、次のとおり、付加訂正するほか、原判決二一枚目表五行目から同二四枚目裏六行目までと同一であるから、これを引用する。

(一) 原判決二二枚目裏一行目「規定」の次に「(被控訴人規則六条二項、七条三項、宗制四三条二項)」を、同二三枚目裏五行目「宗規二三五条」の次に「(なお、被控訴人ら被包括法人においては、総代と責任役員とは一般に同義として取り扱われているところ(被控訴人規則六条二項参照)、宗規二三五条は、総代につき、責任役員に関する規定である宗制四三条二項が当然に適用されるものであることを念のため確認した趣旨の規定であると解せられる。)」を加え、同二四枚裏四行目「公告している」を「掲載して、広く一般信徒に対し、周知させている」と改める。

(二) 控訴人は、次の<1>及び<2>の規定及び例を根拠として、責任役員の解任につき、被控訴人規則七条三項を類推適用すべきではないと主張する。

<1> 被控訴人の包括団体である日蓮正宗においては、代表役員が責任役員(総監)を他のいかなる機関からの関与も受けずに任免することとされており(宗制六条二項、一七条一項)、その解任の場合につき、何らの制約も置かれていないこと、

<2> 地方自治法一六二条は、知事・市長による副知事・助役の選任につき議会の同意を要件としながら、同法一六三条は、知事・市長に一方的解任権を認め、解任の場合には、議会の同意を要件としていないこと。

しかしながら、<1>の点については、包括法人である日蓮正宗における責任役員の解任の場合と、被包括法人である被控訴人における責任役員の解任の場合を同一を論じることはできないというべきであり、<2>の点についても、地方自治法は、知事・市長による副知事・助役の選任につき議会の同意を要件としながら(同法一六二条)、その解任については、議会の同意を要件とせず、知事・市長に一方的解任権を認めていること(同法一六三条)は、控訴人の指摘するとおりであるけれども、副知事・助役は知事・市長の補助機関であるのに対し、宗教法人法による被包括法人における代表役員と責任役員の関係は、後記のとおり、単なる被補助者と補助者の関係ではないから、これを同列に論ずることは相当ではない。

そうすると、右<1>及び<2>は、本件とは場合を異にし、控訴人主張の、類推適用の否定の根拠とはなり得ないものといわなければならない。

(三)(1)次に、控訴人は、責任役員の解任に関する事項は、当該宗教団体の自律権の重要な要素をなす事項であり、本来、当該団体内で自己決定すべき問題であるところ、原判決のように、被控訴人規則七条三項を類推適用して、被控訴人責任役員の解任の場合に日蓮正宗代表役員の承認を要すると解することは、解任手続の制約をなすものであり、被包括法人の自主性をないがしろにし、極めて不都合な結果を招来するもので、誤りである旨主張する。

(2) そこで、まず、日蓮正宗と被控訴人の関係を見るに、《証拠略》によると、次の事実を認めることができる。

イ 「法布院」は、昭和五八年、創価学会員を信徒とする寺院として、日蓮正宗により建立された。すなわち、本件建物の造営は、被控訴人の設立に先立って行われ、同年六月三〇日、落慶入仏法要が行われた。本件建物は、同年九月二二日付で同年七月四日新築を原因とし、所有者を日蓮正宗の総本山である宗教法人「大石寺」(以下「大石寺」という。)として表示登記がされ、さらに、昭和五九年四月三日付で大石寺のために保存登記がされた。

ロ 被控訴人は、昭和六二年四月七日、日蓮正宗を包括法人として設立された。そして、大石寺は被控訴人設立と同時に被控訴人に対し本件建物を贈与し、同年七月一〇日付で同年四月七日贈与を原因とする所有権移転登記を経由した。

ハ 被控訴人の代表役員は、被控訴人を代表し、その事務を総理する(被控訴人規則九条)が、重要事項、すなわち、<1>予算の編成及び決算の承認、歳計剰余金の処置、<2>特別財産及び基本財産の設定及び変更、不動産及び重要な動産に係る取得、処分、担保の提供並びに借入れ及び保証等、<3>主要な境内建物の新築、改築、増築、模様替え及び用途変更並びに境内地の模様替え及び用途変更等、<4>規則の変更並びに細則の制定及び改廃、<5>合併及び解散等については、代表役員を含む四人の責任役員により構成される責任役員会に諮り、その決定を受けた上で、執行しなければならないとされている(被控訴人規則六条、一〇条)。

ニ 前記のとおり、日蓮正宗管長(代表役員)は、日蓮正宗を包括宗教団体とする被控訴人の主管(代表役員)の選任(解任)権、及び被控訴人の責任役員の選任につき承認するか否かの権限を有するほか、宗制と被控訴人規則は、日蓮正宗の被控訴人に対する監督関係につき、次のような内容の規定を置いている。

<1> 被控訴人において、規則を変更したり、合併又は解散するときは、日蓮正宗代表役員の承認を受けなければならないこと(宗制四〇条・被控訴人規則三〇条)、

<2> 法人を解散した場合の、被控訴人の残余財産は、日蓮正宗の総本山である「大石寺」に帰属すること(宗制六二条・被控訴人規則三一条)、

<3> 被控訴人は、代表役員または責任役員が死亡その他の事由に因って欠けたとき、宝物、建造物等に著しい損傷があったときは、一四日以内にその旨を日蓮正宗代表役員に届け出なければならないこと(宗制四二条・被控訴人規則三二条)、

<4> 被控訴人が、不動産または財産目録に掲げる宝物を処分し、または担保に供し、あるいは借入れ又は保証をするときは、日蓮正宗代表役員の承認を受けなければならず、さらに主要な境内建物の新築、改築、増築、移築、除却又は著しい模様替えをし、境内地の著しい模様替えをし、主要な境内建物の用途若しくは境内地の用途を変更し、又はこれらを被控訴人の主たる目的以外の目的のために供するときも、原則として同様であること(宗制四一条・被控訴人規則二〇条二項)、

<5> 決算に当たっては、財産目録及び収支計算書を作成し、責任役員会の承認を受けた後、日蓮正宗の代表役員に届出なければならないこと(被控訴人規則二六条)。

以上のとおり認められる。

以上の各事実によると、包括法人である日蓮正宗と被包括法人である被控訴人は、宗教上の目的を共有するほか、財産上も密接な関係にある(本件建物が、日蓮正宗の総本山である大石寺から被控訴人に贈与されたものであること、及び被控訴人が解散した場合の残余財産は、大石寺に帰属することと規定されていることは、前記のとおりである。)ことから、被控訴人規則及び宗制は、宗教上の目的を共有する特定の結合関係及び組織の一体性を維持するとともに、被控訴人の基本財産等の散逸を防止し、寺院又は教会としての体面を維持することを目的として、日蓮正宗代表役員に、被控訴人主管(代表役員)の選任権(解任権)及び被控訴人責任役員の選任承認権(解任承認権については、別に判断する。)を与えるとともに、重要事項につき、被控訴人代表役員の行為を監督させることとし、他方、被控訴人の責任役員にも、重要事項につき、決定権を保持させることによって、被控訴人代表役員の行為を牽制・監督させる構造を採用しているということができる。換言すると、被控訴人責任役員の選任につき日蓮正宗代表役員に承認権を与えたことの意味は、被控訴人責任役員に人を得ることにより、同責任役員を通じて間接的に被控訴人代表役員の行為を牽制・監督することを実効あらしめ、もって、組織の一体性の維持等の前記目的に資するところにあるということができる。

(3) そして、前示のとおり、被包括法人の責任役員の代表役員に対する牽制・監督権能の重大性に鑑みると、控訴人主張のように、被包括法人の代表役員の責任役員に対する一方的かつ無条件の解任権を認めることは、被控訴人代表役員の恣意による解任をも許容することを意味し、それでは、責任役員の代表役員に対する発言権を弱体化する結果となって相当ではなく、むしろ、選任権限と解任権限とが性質上、表裏一体の関係にあると認めて、被控訴人の責任役員の選任における日蓮正宗代表役員の承認の規定は、解任の場合にも類推適用できると解するのが相当であるというべきである。

(4) 控訴人は、右のように解することは、被包括法人の自主性をないがしろにし、かつ、極めて不都合な結果を招来するもので、誤りであると主張するが、被包括法人の責任役員の地位の重要性を鑑みると、その代表役員の恣意による解任を防止するために右のような規定を置くことには合理性があり、また、前示目的のために包括法人の被包括法人に対してするその程度の制約は、やむをえないものと解せられる。そして、右(3)のように解することに合理性がある以上、右の解釈が、控訴人が主張するように、直ちに憲法二〇条、宗教法人法一条二項、二六条一項後段及び七八条の趣旨に反するものということもできない。

(5) なお、控訴人は、被控訴人責任役員の解任における日蓮正宗代表役員の承認は事後的な「届出」程度の意味しかないとも主張する。しかし、前示のとおり、包括法人は被包括法人を監督できるのであり、右承認の意味を控訴人主張のように解することは相当ではない。

(6) したがって、この点に関する控訴人の主張は採用できない。

三  争点2(本件解任行為の正当性)について

1 控訴人の主張(一)について

(一) 被控訴人の責任役員の解任につき、被控訴人規則七条三項が類推適用され、日蓮正宗代表役員の承認が必要であると解すべきことは、前記二2において説示したとおりであるが、控訴人の主張(一)中には、控訴人主張に係る特段の事由、すなわち、<1>平成四年一一月当時、被控訴人の圧倒的多数の信徒及び控訴人は、日蓮正宗との被包括関係廃止を望んでいたこと、<2>被控訴人の当時の責任役員は、被包括関係廃止を防ぐ目的で日蓮正宗から強制されたものであり、その同意を得ることは全く期待できず、被控訴人の自由な意思形成が妨げられていたこと、<3>被控訴人の代表役員である控訴人による本件解任行為は、信徒の総意を重視して、宗派離脱を断行する前提として、信徒の総意を責任役員会に反映させる目的で行ったものであること、以上<1>ないし<3>の特段の事由があるときは、法二六条一項後段及び法二八条の規定の趣旨により、又はこれらの規定を類推適用することにより、前記責任役員の解任につき、日蓮正宗代表役員の承認を要しないと解すべきであるとの、主張を含むものと解せられる。

(二) そこで、検討するに、被包括法人が包括法人との間の被包括関係を廃止しようとするときは、被包括関係の廃止を望まない包括法人との間に、信仰の在り方についての意見を異にし、また、布教その他の宗教上の利害が相反することも起こり得るところであって、宗教法人法は、被包括関係の廃止が、右のように憲法二〇条の保障する信教の自由に深くかかわることから、被包括関係廃止の場合に起こり得る双方の信教の自由ないし宗教上の利害を調整するために、法二六条一項後段及び法七八条の規定を置き、一定の場合につき、被包括法人の被包括関係の廃止を保護しているところである。

しかしながら、法二六条一項後段は、被包括関係の廃止に係る規則の変更の手続に関するものであり、法七八条は、被包括関係の廃止に係る不利益処分の禁止を定めたものであって、本件の問題である、被控訴人責任役員の解任についての日蓮正宗代表役員の承認の要否に関する規定ではない。

また、宗教法人法には、被包括関係廃止の自由を担保する見地から、包括宗教団体の右「承認権」の行使を制限する規定が存在しないことも明らかである。

(三) そこで、進んで、「本件においては、法二六条一項後段及び法七八条の規定の趣旨により、又はこれらの規定を類推適用することにより、被控訴人前記責任役員の解任につき、日蓮正宗代表役員の承認を要しないと解すべきである」との控訴人主張の当否について、判断する。

被包括関係の廃止は、宗教的性質事項(控訴人の表現を借りれば、「聖」の領域)に属し、本来、国家による干渉になじまず、宗教団体相互間の自治に委ねられるべき事項である。したがって、右各規定は、それぞれの信教の自由が衝突し信教上の利害が鋭く対立する被包括法人と包括宗教団体との間を調整する規定として、これを厳格に解釈すべく、みだりに拡張解釈ないし類推適用することは許されないというべきである。

そうすると、本件は、被包括関係廃止に係る「規則の変更」に関してではなく、「責任役員の解任」に関して日蓮正宗代表役員の承認が必要か否かが問題となっている事案であって、法二六条一項が直接適用される場面ではない以上、被控訴人の圧倒的多数の信徒が被包括関係の廃止を望み、控訴人の責任役員解任の動機が被包括関係廃止を進めることにあったとしても、このような事情や動機は、責任役員の解任に日蓮正宗代表役員の承認が必要である旨定めた被控訴人規則の適用ないし類推適用を排除する理由にはならないというべきである。

(四) なお、控訴人は、宗派離脱(被包括関係廃止)は宗教団体としての信教の自由の「聖」の領域に属するものであり、したがって宗派離脱の意思は、信徒の総意などの「聖」の領域の意思決定によるべきであり、それが宗教団体の意思であるとして、その意思を重視すべきであると主張するものと解せられる。

しかしながら、仮に平成四年一一月当時、被控訴人の圧倒的多数の信徒及び控訴人が日蓮正宗との被包括関係廃止を望んでいた事実が認められるとしても、宗教法人法及び被控訴人規則によると、被控訴人の法的な意思形成には、被控訴人責任役員会の議決が必要であり、現行法規上は、それ以外の方法で、被控訴人の意思形成を行うことはできないのであるから、佐崎昭二郎ら三名の責任役員選任に至る経緯はともかくとして、一旦は被控訴人における信徒の代表としてこれらの者を責任役員に選任したものである以上は、被控訴人の信徒及び控訴人は、まず、責任役員会で議論するなり、反対派の責任役員の説得に努めることにより自己の意見を責任役員会に反映させ、もって、控訴人主張の内容の意思形成に努めるべきであったのであり、反対派を解任して責任役員会から排斥する行為につき日蓮正宗代表立役員の承認を要するとすることが、ただちに、法二六条一項後段及び法七八条の規定の趣旨に反するとまでは、到底解することはできない。

また、この点に関し、控訴人は、被控訴人の圧倒的多数の信徒がその宗教的信念から被包括関係の廃止を望んでいることにつき証拠調べが必要である旨主張するが、本件においてその取調べを要するとは解せられないだけでなく、控訴人主張によっても「聖」なる領域に属する信徒各人の内心の信仰の問題に立ち入って、裁判所が事実調べを行うことは、相当ではないというべきである。

(五) そうすると、控訴人の右主張は採用できない。

2 控訴人の主張(二)について

控訴人は、憲法二〇条の趣旨から、包括・被包括の関係の廃止の場面では、特に、被包括法人の独自性、自律性が最大限に保障されなければならないところ、控訴人は被控訴人の代表役員として、宗派離脱を求める信者の総意という「聖」なる部分の意向を責任役員会に忠実に反映させるため、やむなく本件解任行為を行ったが、宗派離脱を前提とした責任役員の解任に、包括法人である日蓮正宗の承認を得ることは不可能であったのであり、それを敢えて承認を得るように要求することは、宗派離脱を認めないことと等しく、著しく不当な結果となる旨主張するが、当裁判所も右主張は採用できないと判断するものであって、その理由は、右1において述べたところと同一である。

したがって、控訴人の右主張も採用できない。

四  争点3(本件罷免処分の効力)について

1 本件罷免行為

日蓮正宗管長(代表役員)阿部日顕は、被控訴人代表役員である控訴人が<1>日蓮正宗代表役員の承認を得ずに本件解任行為を行ったこと、及び<2>平成五年四月一〇日、本件解任行為につき、日蓮正宗総監藤本日潤のした本件撤回命令に従わなかったことは、宗規二四七条九号に該当するとして、同月二二日付文書により、控訴人に対し、被控訴人主管を罷免する旨の本件罷免処分を行ったことは、前記認定のとおりである。

2 控訴人は、法七八条一項は、宗教団体が、その包括する宗教法人と当該宗教団体との被包括関係の廃止を防ぐことを目的として、又はこれを企てたことを理由として、当該宗教法人の代表役員等を解任してはならない旨定めているところ、本件罷免処分は、法七八条に違反してなされたもので、無効である旨主張するので、検討する。

(一) 懲戒処分の判断基準

まず、宗教団体内における懲戒処分の当否の判断基準について検討するに、この点に関する当裁判所の判断は、原判決二七枚目表八行目から同裏六行目までと同一であるから、これを引用する。ただし、同裏三行目「手続上の準則違反」の前に「法規違反ないし」を加える。

(二) 本件罷免処分の意義

被控訴人においては、被控訴人規則七条により、「代表役員は、日蓮正宗宗規により、この教会の主管の職にある者をもって充てる。」と定めていることは、前記認定のとおりである。そうすると、主管の地位を剥奪する本件罷免処分は、それが有効であれば、他になんらの手続を行うことなく、直ちに、被控訴人の代表役員の地位をも失わせる効果が生じることになることを考えると、本件罷免処分は、直接的には主管を罷免する処分であるが、併せて代表役員の地位も失わせる処分であると評価することができるものといわなければならない。

(三) 本件罷免行為の目的

ところで、前記一1、3ないし9において認定したところによると、控訴人は、その宗教的信念を貫き、かつ被控訴人の信徒中の多数を占める創価学会員の希望に応えるためには、日蓮正宗との被包括関係廃止(宗派離脱)もやむなしと考え、日蓮正宗との間の被包括関係の廃止を動機ないし目的として、責任役員会における被包括関係の廃止を含む本件規則変更決議に反対することが予想される責任役員を、賛同する者に入れ替えるため、平成四年一一月九日、本件解任行為を行ったものであり、他方、日蓮正宗と創価学会との間の紛争の経緯からして、控訴人において、本件解任行為につき承認を求めたとしても、日蓮正宗代表役員は、被包括関係の廃止を防止する見地からこれに承認を与えることはなかったであろうことは容易に推測できるところである。そして、前記一3、7において認定したとおり、日蓮正宗が被包括関係廃止の動きに警戒し、その防止に動いていたことからすると、本件罷免処分は、前記1<1>、<2>掲記の事由を理由とするものであるけれども、被包括関係の廃止を防ぐことにその目的があったと認めるのが相当である。

3 被控訴人は、法七八条は、適法な被包括関係廃止を理由とする不利益取扱等を禁止しているのであり、違法行為(前記1<1>、<2>)まで保護するものではないから、本件においては法七八条を適用する余地はないと主張する。

なるほど、控訴人は、日蓮正宗代表役員の承認を得ずに、本件解任行為を行い、かつ、本件解任行為につき、日蓮正宗宗務院の本件撤回命令に従わなかったことは、被控訴人の主張するとおりであるけれども、前記認定事実によれば、控訴人において本件解任行為について承認を求めたとしても、日蓮正宗代表役員は、被包括関係の廃止を防止する見地からこれに承認を与えることはなかったであろうことは容易に推測できる上、本件撤回命令の目的も結局は被包括関係の廃止を防ぐことにあったと認められるから、控訴人が本件撤回命令に従わなかったことなどを理由とする被控訴人による不利益取扱を容認するときは、結局、被包括関係廃止を理由とする不利益取扱等を禁止する法七八条の趣旨を潜脱する処分を許容することになり、法的正義の観念に照らして容認できるものではない。

そうすると、日蓮正宗が、右の各法規違反等の事由の存在をもって、本件罷免処分を行うことを正当化できるものではないから、被控訴人の右主張は採用できない。

4 したがって、本件罷免処分は法七八条に違反し、無効であるといわなければならない。

五  以上のとおり、本件罷免処分は、その効力を生じるに由のないものであるから、控訴人は、引続き被控訴人の代表役員として、本件建物を占有することができるものといわなければならない。

そうすると、本件罷免処分が有効になされた結果、控訴人が本件建物に対する占有権限を失ったとする被控訴人の本訴請求は、その前提を欠き、棄却を免れない。

第五  結論

よって、右と結論を異にする原判決はこれを取り消して、被控訴人の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺剛男 裁判官 水谷正俊 裁判官 矢沢敬幸)

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